膨張弁の概要

温度膨張弁は凝縮器から出た高温・高圧の液冷媒を蒸発しやすい状態に減圧し、蒸発器内部の最適流量を確保します。冷却負荷の増減によって変化する圧縮機の容量に合わせて冷媒ガスの過熱度を一定範囲内に保持し、異常加熱と液戻りを防止します。

ご注文時の指定事項

  1. 1.標準形の場合はカタログ番号をご指定ください。
  2. 2.標準形以外の特殊仕様は、次のような点をご指定ください。
    • 常用圧力、最小・最大圧力(凝縮圧力、蒸発圧力)
    • 用途・封入方式…b
    • 常用温度、最低・最高温度(凝縮温度、蒸発温度)
    • 取付け場所(本体及び感温筒取付部温度等)
    • 冷凍能力(凝縮温度及び蒸発温度と共に)
    • キャピラリチューブの長さ…f
    • 装置冷媒名
    • 継手形状(フレア、ろう付)…h

関連用語の説明

  • カタログ番号:
    標準形をご希望の場合は、カタログ番号のみで機種が決定できます。
  • 調整範囲:
    この調整範囲内であれば、任意の位置で設定可能です。(主に弁開き始め位置を基準とします。)
  • 冷凍能力:
    標準的な使用条件における称呼能力です。(kW)
  • 継手形状:
    フレア継手は冷凍用フレア管継手(JIS B 8607)を主に採用しています。寸法は全て接続する相手配管基準で表しています。
  • 最高使用圧力:
    通常の使用条件下で、バルブが支障なく機能する使用可能最高圧力です。
膨張弁と冷凍サイクルの関係図 膨張弁と冷凍サイクルの関係


1.凝縮温度(CT)
冷媒サイクルの中で一番温度の高い冷媒液状態の部分の温度です。(膨張弁入口冷媒飽和液温度)
2.蒸発温度(ET)
水・空気負荷等を冷却するための冷媒液ガスの混合状態の部分の温度です。(膨張弁出口冷媒飽和蒸気温度)
3.過冷却度(SC)
冷媒液温度相当圧力に対して、圧力は変化せず、温度だけ低下した度合。(膨張弁入口温度と圧力相当温度との差)
4.過熱度(SH)
冷媒ガス温度相当圧力に対して、圧力は変化せず、温度だけ上昇した度合。(膨張弁感温部温度と均圧部圧力相当温度との温度差)
5.凝縮圧力
1.の温度相当圧力
6.蒸発圧力
2.の温度相当圧力
7.冷凍能力
冷却熱量をkWで表したもの。1米国冷凍トン:3.52 kW
8.圧力損失
配管内の摩擦抵抗が主な圧力損失の原因です。高圧側での発生は過冷却度の減少、またはフラッシュガスの発生となり、低圧側での発生は蒸発器内での温度バラツキ、能力ダウン傾向となります。内部均圧形膨張弁では運転過熱度の増加につながります。
9.最高使用圧力
通常の使用条件下で膨張弁が支障なく機能する最高圧力(設計圧力)です。

感温筒封入方式

封入方式は装置冷媒の種類、使用蒸発温度、デフロストによる熱影響、取付部の周囲温度等により最適な選択が必要です。

S及びG封入特性

C封入特性

特殊封入式(S)(SA)(SL)
異種ガスを混合して封入したもので、(G)封入に比べて運転過熱度を小さくでき、M.O.P.を規制することもできます。
・適用蒸発温度範囲とM.O.P.の違いによって記号を変えています。
・主に冷房装置(施設園芸)、ヒートポンプ装置、低温装置用

ガス封入式(G)
装置の使用冷媒と同種類の冷媒を封入したもので、一定の温度の上昇で封入液が過熱ガスになるポイントがあります。このポイントをMaximum Operating Pressure(M.O.P.)と呼んでいます。
・主に冷房装置用
M.O.P.の規制の結果、始動時の液戻り防止、圧縮機モータの過負荷防止が可能。

特殊封入式(C)(CL)
吸着材と特殊ガスを封入したものです。高温脱着、低温吸着による圧力変化を利用、低温で運転過熱度を小さくすることができます。また感温筒温度と本体周囲温度の高低に関係なく正しく制御できます。M.O.P.規制は有りませんが、過負荷防止効果が期待できます。
・適用蒸発温度範囲の違いによって記号を変えています。
・主に低温装置、極低温装置用

TSとはエレメント部温度、TBとは感温筒温度(制御温度)

( )付の封入方式については、特殊な封入方式になります。

対象装置\封入方式 G S (SA) (SL) C (CL)
TSとTBの関係 TS>TB TS≧TB TS≧TB TS≧TB TSTB TSTB
M.O.P.規制(過負荷防止)運転
冷房装置への適用 ※2
低温装置への適用 ※1 ※2
極低温装置への適用 ※1 ※2
ヒートポンプ装置への適用 ※2

※1はAEX形のみ使用可能です。
※2はM.O.P.の設定によって使用可否が異なります。

均圧方式

蒸発器の圧力損失と圧力変動幅の大きい装置には外部均圧式、圧力損失の小さい装置には内部均圧式を選択します。例えば低圧側に0.102 MPaの圧力損失が有る場合、内部均圧式の膨張弁では運転過熱度が約5℃増加します。
冷媒 R404A
A点 0.702 MPa abs(5℃)
B点 0.6 MPa abs(0℃)
ばね圧力P3 0.102 MPaに設定

外部均圧方式の場合の図解 外部均圧方式の場合

内部均圧方式の場合の図解 内部均圧方式の場合

感温筒内部の圧力(P1)
=0.6+0.102=0.702MPa absの飽和温度
運転過熱度は5℃−0℃=5℃となります。

感温筒内部の圧力(P1)
=0.702+0.102=0.804MPa absの飽和温度
運転過熱度は10℃−0℃=10℃となります。

低圧配管の圧力損失

圧力損失相当分が運転過熱度の増加現象となり、吸入配管の圧力低下や冷凍能力の減少につながるため、過大な運転過熱度の増加は注意が必要です。1℃温度差に相当する圧力差程度が均圧方式の選択の目安といわれています。下記表内の値以上の圧力差が有る場合は外部均圧方式が効果的です。

1℃温度相当圧力差(MPa)

冷媒 蒸発温度(℃)
10 5 0 -5 -10 -20 -30 -40 -50 -60
R134a 0.014 0.012 0.011 0.009 0.008 0.006 0.004 0.003 - -
R404A 0.025 0.022 0.019 0.017 0.015 0.012 0.008 0.006 0.004 0.003
R407C 0.021 0.018 0.016 0.014 0.012 0.009 0.006 0.004 0.003 0.002
R410A 0.033 0.029 0.026 0.023 0.020 0.015 0.011 0.008 0.006 0.004
R448A 0.022 0.020 0.017 0.015 0.013 0.010 0.007 0.005 0.003 0.002
R449A 0.022 0.019 0.017 0.015 0.013 0.010 0.007 0.005 0.003 0.002
R463A-J 0.029 0.026 0.023 0.020 0.017 0.013 0.009 0.007 0.004 0.003
R407H 0.021 0.019 0.017 0.014 0.012 0.009 0.007 0.004 0.003 0.002

過熱度

冷媒の飽和蒸気温度に対して、圧力が変化せず温度だけが上昇した度合いです。膨張弁の過熱度には静止過熱度と過熱度変化があり、この和が作動過熱度で、蒸発器出口部分で発生する過熱度に相当します。

過熱度の作動原理

過熱度の作動原理図解 過熱度の作動原理

静止過熱度(SSH):弁が閉止から開き始めるまでの過熱度
過熱度変化(SHC):弁が開き始めから必要流量開度までの過熱度
作動過熱度(OSH):静止過熱度+過熱度変化

静止過熱度調整

過熱度の調整とは静止過熱度の調整をいいます。特別な理由がない限り、装置の安全を計るために、静止過熱度を設けるようにしてください。

静止過熱度調整範囲(℃) スピンドル1回転あたりの変化量(MPa)
QCX
RCX
1~5(R410A、R407H、R463A-J) 約0.045
1~7(R448A、R449A)
SCX 1~5(R134a、R404A、R448A、R449A)
1~7(R407C、R410A、R407H、R463A-J)
VPX
WPX
1~7 約0.025
AEX 0~20 約0.05
ATX 1~7(R410A、R404A用S、SL封入、R463A-J) 約0.007
0~8(S、SL封入)
0~10(R448A、R449A用C封入)